以前、「逍遥の季節」を読んだときに、乙川優三郎作品の素晴らしい世界観にいたく感動したので、2冊めを手に取りました。
第40回大佛次郎賞受賞作「脊梁山脈」です。
脊梁山脈って何?
この小説を読み始める前に最初に思ったことは、「脊梁山脈って何?」ってことだったんですよね。
僕の地理の知識では、日本にそんな名前の山脈なんてなかったはずなので、まずその意味を検索することからはじめました。
脊梁山脈
地域を分断するような大山脈。背骨のように見えることから。
なるほど~!「脊梁」という言葉そのままの意味だったんですね!
このタイトルがつけられた意味は、読み進めていくとすぐにわかります。メインとなる舞台が山中だからです。笑
あらすじ
ものすごく簡単にあらすじを説明するとこんな感じです。
あらすじ
戦争終結後に上海から帰国した主人公の矢田部信幸。そのときの復員列車内で体調を崩したときに助けてもらった小椋康造という男性を探すうちに、木地師の歴史に没頭していく。
もちろん、そこに付随してくる肉付けがたくさんありますけどね~。
美しい文体と取材力が素晴らしすぎる
とにかく驚異的なのは、乙川優三郎さんの美しい文体と取材力なんです。
徹底した取材と、様々な情報から仮説を導き出す考察力は、作家というより学者なのでは?と思わせるほどです。
- こけし制作につかわれる轆轤(ろくろ)の知識
- 芸妓の芸の知識
- 日本書紀を軸とした日本人のルーツの考察
- 渡来人と日本人のかかわり
これらの情報量が理路整然と、そして情熱的に語られて、どんどん物語に引き込まれていきます。
僕の知識とか物事の捉え方は、マンガで基礎が作られたと言っても過言ではないのですが、山から山へと渡り歩いていく木地師には、蟲師のワタリと呼ばれる集団の姿が重なりました。
深淵な奥深い山を、よりよい素材を求めて移動していくさまは、「もののけ姫」に登場する、たたら場で働く女性たちと真逆でありながらも重なる部分が多いなと感じたり・・・。
そして、作品中で重要な役割を果たす、生き方の異なる複数の女性が様々な葛藤を抱えながらも精一杯日々を過ごしている姿には、心の奥の一部分をギュっと掴まれた気がしました。
個人と集団、男性と女性、現代と過去、山と海・・・対比するものを適切に配置することで、物語の幅だけでなく頭に思い浮かぶ景色の変化が彩りを増やしてくれます。
まるで、頭のなかで各地を旅行しているような気分にさせられるのです。
構成力も素晴らしすぎる
構成力の素晴らしさも特筆モノで、これぞ乙川優三郎の真髄なのでは?と感じました。無駄な描写がひとつもない上に、中だるみも全くないという素晴らしさ。
おそらく、膝を突き合わせて何時間もかけてお話を聞いても、まったく飽きない時間が過ごせそうです。
この作品は、第40回大佛次郎賞を受賞しているそうなんですが、これをとっかかりにして過去の受賞作品もすべて読んでみたいなと思わせるほどの完成度でしたね。
「読まなきゃ損ですよ!」ということだけをお伝えして、レビューの締めとしたいと思います。
木地師の資料館
この小説を読むと、木地師の世界にぐぐっと引き込まれてしまいます。
もっと深くその世界を知りたいという場合は、滋賀県に木地師資料館がありますので、訪問してみるのも良いですね。
木地師資料館 | 滋賀県東近江市蛭谷町176 |
12月1日~3月31日は閉館期間で、オープン期間も予約が必要となっています。入館料は300円です。
電話番号:0505-802-3313